遊び論(2):子どもとの”対話”と実践例

「子ども中心主義」という理念をただの標語ではなく、子どもの”自律”へと発展させている施設があります。横浜市にある「りんごの木」という保育施設であり、ここでは各クラスが幼児数30~40人、担任が2~3名だといいます。同園は「大人が”どういう子に育てたいか”ではなく、”幼児一人一人がどう育とうとしているのか”を重視」(※文献p52)しているといいます。そのための具体化として、次のような実践をします。

「幼児が自由に遊び込んだ後の11時過ぎから30~60分の時間をかけ、車座に椅子を並べて座る形で話し合いが行われ、保育者も輪の中に入るという。そこで遊びのこと、喧嘩のこと、友だちのこと、家族のこと、その日あったこと、ふしぎに思っていることなどの出来事をテーマに、保育者と幼児がワイワイガヤガヤ、相互に言葉を介して話し合うことで、お腹をかかえて笑い合ったり、大激論になったりする。必ずしも結論がすぐに出るわけではないけれども、幼児が自分の言葉で語り、心のモヤモヤを出し、そして考える。」(同p52)

この実践がユニークなのは、4~5歳児が互いの気持ちを素直にコトバとして表し、一見するとネガティブな喧嘩のような場面も受け入れていることです。一般的な方法では保育者がその子の内面をくみ取るようなことが強調されてしまい、子ども同士が話し合いで解決をするようなことはありません。ところが、同園ではそんな本音での語りを保育者も一緒になって、クラス全体の”対話”の中でしているというのです。

実際の語りの場面を紹介した部分を下記に引用しておきます。
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カナメ:(私がステージでピアノを弾いたら)お客さんにピアノ間違っていると思われているよってマユチンに言われて嫌な気持ちになった・・・
マユチン:(突然泣き叫びながら)なんで今、それを言わなきゃだめなの?みんなの前では言って欲しくなかった
園長:でもマユチンが言った言葉で、カナメが嫌な気持ちになったんだから仕方ないじゃない
マユチン:(泣きながら)そんなこと簡単に口出ししてほしくない!
カナメ:(叫びながら)
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※【文献】中坪史典『幼児教育における”子ども中心主義”の理念に潜在する問題』(2015)

匠英一 について

日本ビジネス心理学会:副会長 / デジタルハリウッド大学(元)教授      専門は心理学(認知科学)を軸にした教育・人材育成や組織改革であり、心理・経営コンサル業に30年以上従事。1980年の学生時代から学びの楽しさをコンセプトにした塾経営もおこない、東進スクール研究所の顧問やデジタル教材の監修・企画(ニッケンアカデミー)し、90年代より日本初の認知科学専門のコンサル会社(株)認知科学研究所を創設。 アップル社や(財)中央職業能力開発協会等のコンサルに従事。現在までにCRM協議会(初代事務局長)、日本ビジネス心理学会など業界団体15件を企画・創設。 *詳細は→https://www.bookscan.co.jp/interviewarticle/401/1
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