ハラスメント論(1):モラルハラスメントの本質

いじめ・ハラスメントにはそのタイプに応じた発達段階のようなパターンがあることが専門家の研究でわかっています。陰湿な場合は閉鎖空間であることから、その閉鎖度合いに応じたいじめ関係がパターンとしてみられるのです。

たとえば、初期の場合ならいじめも明確ではなく、互いのイタズラ心によるふざけ合いのような形にみえます。その段階では当人達も遊び的な行動をしているとしか意識していないはずです。それが徐々に進行するにつれて、直接暴力を振るわなくとも陰険なものへと転化していくといったことが起きてきます。そのきっかけとなる出来事は様々ですが、集団内の絆を絶対化しているため、それを妨たり無視した行動を相手がしたときが一つの区切りと考えられます。

このようないじめ段階を「全能性を求める欲求」(自分の正義が絶対とみる心理)と指摘する専門家もいますが、相手を自分達の”正義”を妨げる「害をなす者」とみなし、自分の”正義”がわからないことを相手の責任だと非難する態度がみられます。それが彼の周りにいる集団と一体となって、特定の者を責めるコトバによってエスカレートさせていくようなケースが典型的な「モラルハラスメント」です。

そこには相手をいかに自分の”正義”に従うようにさせるかという意図が一貫してありますが、それは実際には被害側も気づきにくいものです。表面的には「子どものために」「会社のために」といった”正義”を語るようにみえるためです。それにより、被害側は自分が悪いのではないかと感じさせられてしまうことになります。

とくに加害側がボランティア的な活動ならば社会貢献をしている意識が強いため、自分達のほうに”正義”があるという意識が強く働きます。一般の企業などであればどこか商売という後ろめたい意識があったりしますが、ボランティア活動には金銭的以外の社会的な価値を生み出しているという自負心があるからです。

とはいっても、時間が経つにつれて被害側も何かおかしいと気づき始めます。被害側に嫌味や憎しみの態度をみせるようになり、矛盾するコトバで反省を迫ったりしてくるためです。そして、その加害者の仲間がいる場合には、そのメンバーらも一緒になって被害者を「無視」する態度をとったりする形で関節的に傷つけようとします。

こうした行為に対して被害側は相手への怒りの感情もありますが、集団的な心の暴力によって自尊心も低下させられ、うつ病になるほど大きなストレスを受けるというわけです。

匠英一 について

日本ビジネス心理学会:副会長 / デジタルハリウッド大学(元)教授      専門は心理学(認知科学)を軸にした教育・人材育成や組織改革であり、心理・経営コンサル業に30年以上従事。1980年の学生時代から学びの楽しさをコンセプトにした塾経営もおこない、東進スクール研究所の顧問やデジタル教材の監修・企画(ニッケンアカデミー)し、90年代より日本初の認知科学専門のコンサル会社(株)認知科学研究所を創設。 アップル社や(財)中央職業能力開発協会等のコンサルに従事。現在までにCRM協議会(初代事務局長)、日本ビジネス心理学会など業界団体15件を企画・創設。 *詳細は→https://www.bookscan.co.jp/interviewarticle/401/1
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